2015年8月16日日曜日

「見張りを誰が見張るのか」【ハイパーストラテジーかくれんぼ】PS3 Watch Dogs ウォッチドッグス 電脳麻薬度:4.0






電脳麻薬度:4.0




どんなゲーム?


 本での発売は2014年6月26日。ゲームから少し遠のいていた僕の耳にさえ入ってくるほど、異端児のオープンワールドゲームが出た!オープンワールドのゲームのジャンルを確立したといっても過言ではないGTA3をほとほと遊びつくしていたので、正直このウォッチドッグスもGTAのパスティス、模倣だと舐めていたのが正直なところ。
 舞台は少し未来の「シカゴ」。ストーリーは「ctOS」というシステムにほぼ全ての機器が繋がったという設定の街で、武闘派系ハッカー「エイデン・ピアース」が主人公の復讐劇だ。この主人公はスマホを駆使してctOSに繋がった機器を次々とハッキングする能力を持つ。とは言ってもプレイヤーが一つの機器に対して色々な指示を出すことはオープンワールドのゲームにとって時間がかかりすぎるため、予め街に用意されたギミックを作動させるか、否かのON/OFFしか選ぶことは出来ない。それでも用意されたギミックは幅広く、簡単なところで言えば交差点の信号機を全て青にして事故や予測不能の車の動きを誘発させたり、道路の地下に埋まっているスチームパイプを爆発させて車を吹き飛ばしたりすることが出来る。GTAのような車を奪う、銃を撃つというオープンワールドゲームの基本的な動作に加えてこのハッキング能力を使って話を進めていく。


何が面白いの?

 ずは主人公の魅力をあげておきたい。ステレオタイプなハッカーとは無数のモニターの並べられた暗い部屋に引きこもりパソコンをひたすら叩くメガネオタクってのが相場であるが、このエイデンさんは違う。自らを自警団(ビジランテ)と自負しており、自身もハッカーという犯罪者のくせに、人を傷つけるような直接的な犯罪は目の敵にして、犯罪行為を行ったもの(ctOSで犯罪を起こしそうな人間や場所まで特定できる)に対しては容赦なく私刑を執行する。そのため身体能力も非常に高く、パルクールの動きを取り入れて街を駆け回る姿は最近のゲームには無い斬新な絵と言える。ただ、市民からは何となく街に自警団(ビジランテ)と言われる人間が犯罪を抑止しているらしい・・・程度の認識をされているが、市民や警察を傷つける行為を取り続けると評価が下がってしまい顔を見られただけで警察に通報されるなどとペナルティが課せられる。(逆に犯罪を抑止し続ければビジランテとしての活動が認められ、多少暴れても警察を呼ばれにくくなる。)


 日本語版声優の森川智之氏も有名で、とてもエイデンに合っていると思う。特にオンラインで勝った時にボソッと呟くセリフがたまらない。「計画どおりに運んだな・・・」「完璧だ・・・!」策を巡らして相手を出し抜いたプレイヤーの気持ちを代弁してくれる。
 しかし服のセンスは最悪で洋服屋に行っても彼はロングコートにつば付キャップのスタイルの中からしか服を選ばない。そのためどの恰好を選んでも変わり映えしない。


対戦して勝利してもこの静けさである


 に魅力的なのは世界観だろう。ゲームで小道具としてではなく「スマートフォン」をここまで作品の主軸ににぶち込んだ作品は他に類を見ない。最初にプレイした時には歩きスマホの主人公がゲーム内でありありと描写されることに、一種の驚きと現代への風刺を感じた。彼は店でコーラを飲むときでさえ、プレイヤーの意志と無関係にスマホをいじり続ける。そしてスマホをいじりながら一口飲んで店主に返す。マテバを片手に歩きスマホする姿は新世代のダークヒーローの出現を感じさせる。

コーラを買うエイデン

あと製作者はかなり日本のSF作品に影響を受けていると思われる。少なくとも「攻殻機動隊」は間違いないだろう。ハッキングした情報のディスプレイ表示(対象物の角度に応じてディスプレイ動く)なんかも似てるし、監視カメラに映るエイデンの顔、全体像にモザイクがかかってるっていうのも「笑い男」なんかに通ずるところがある。

斜めに映るバトーさん
こじ付けっぽい画面表示

監視カメラに映らないエイデンの顔


 さらにいうなれば「ctOSによる管理社会」の設定は、「サイコパス」で出てきた「シビラシステム」なんてのを匂わせる。まあ、実際はどうだか分からないがあくまでファンタジーの話で、様々な要素を取り入れてこのストーリーを作ったのだとしたらパクリではなく完全に昇華と言っていい。ctOSという基幹システムは出来てまだ間もない設定で、ゲーム内でその是非が問われている。ctOSに監視され全てのものが繋がっている社会の恩恵と弊害についてどちらに偏ることなく示しつつ、「見張りを誰が見張るのか」という命題をプレイヤーに投げかける。このあたりの設定はシビラシステムに立ち向かい是非を問うサイコパスなんかの影響が強いのかもしれない。



 ープンワールドのゲームの常識を覆したのも見逃せない。この手のゲームと言えば、ある意味自分の分身のようなキャラクターがリアルでは不可能なタブーを仮想現実で実行出来てストレス発散!ってのが一つの目的としてあると思う。通行人に突然発砲したり、轢き殺したり、警察と闘ったり・・・。僕がオープンワールドのゲームを辞めたのは「こんなにもハチャメチャ出来るんだよ!グラフィックもきれいで凄いでしょ!」っていう風潮に嫌気がさしたから。もちろんオンライン対戦の要素や、ゲームシステム、ストーリー自体もかなり凝って作ってあるのは分かるのだが、ハチャメチャ出来るというのが根底にあって敬遠していた節がある。このウォッチドッグスでもそれは可能ではある。しかしそれをやっていると前述したとおり自警団としての評価が下がり、生きにくい世界になってしまう。僕が考えるオープンワールドの一つの売り、ハチャメチャ出来るということをある意味否定したこのゲーム、僕には大変斬新に思えた。



 後に特筆すべきはオンライン対戦の要素だろう。オープンワールドのゲームでオンラインプレイの目的は大体相手をキルする事である。あのステルスゲームの金字塔、メタルギアソリッドでさえオンライン対戦の要素では殺し合いがメインになっている。ウォッチドッグスは番犬、すなわち監視者という意味もあり、相手をキルすることは許されない。PS3では4つのオンラインモードが存在するが、メインとなるオンラインハッキングを例にとると、



ハッキングを仕掛けたプレイヤーは別のプレイヤーのオープンワールドの世界に入り込むことが出来る。
入り込んだ先で、相手に近づきバレないようにバックドアウィルスを仕込む。
仕込みが完了したらあとは隠れやすそうな所を探してハッキングを開始する。
開始した場所から円状にスキャンサークルが展開され、その中にいる間はハッキングが進行する。
完了するまでに相手に見つけられたり、殺されなければ勝ちというルールだ。


要するに右下のマップに表示された徐々に小さくなる円状の範囲で最後まで見つからなければいいというワケ


このルールがとても秀逸で、「かくれんぼゲーム」という単語で括るにはあまりにも安直である。もちろんかくれんぼであることは変わらないのだが、侵入された側、した側、両者の様々な思惑が半径数十メートルのサイバー空間でぶつかり合う、ハイパーストラテジーかくれんぼである!

例えば相手が通りそうなところにセンサー爆弾を仕掛け、位置を知るのに利用したり、ギミックを利用しないと入れない場所で停電を起こし籠城したり、殺さない程度に痛めつけて敵を足止めしたり等と枚挙に暇が無い。地形も広く、相手の位置によって隠れるステージも千差万別のため、地形を覚えるまでは一瞬の判断力や応用力、それに度胸が試されることになる。多彩なギミックの地形や、武器、アイテムの組み合わせを考慮し、プレイヤーの発想次第であれこれ試行錯誤出来るのは、対戦ゲームとしても完成度が高いと言わざるを得ない。


悪いところ

 グが多いところ。ストーリーが進行不可能になるようなバグが多いらしい。僕自身起こったバグはポーカーの椅子に座れないバグぐらいだが、ネット上ではこのほかにもちらほら散見される。細かいところで言えばオンライン対戦結果が変なタイミングで表示されて一切のコマンドが効かなくなるのは本当に止めていただきたい。侵入者を特定した瞬間に前回の対戦結果が表示されたりする。

 オンライン対戦の悪名ポイントなどの制度に問題があるところ。悪名ポイントとは他のゲームで言うオンラインランクマッチのポイントとでも説明しておけばいいだろうか。要するに勝って+50ポイント、負けて-250ポイントというハイリスク、ローリターンな戦果しか得られない相手とのマッチングが非常に多い。相手を選ぶ権利はあるが、ハイポイントな相手となかなかマッチングしないのが現状である。(悪名ポイント12000付近の話。)また侵入者側がハイリスクなのに加えて、侵入された側は失うものが何もなく、逆に侵入者を特定してキル出来ればポイントがもらえるため、相手を探すのに有利な場所を徘徊する、いわゆる侵入「待ち」の横行に拍車をかける。(10分以上放置しても侵入されなかったりするので、待ちも気長に待つ必要はある。)また回線切り、いわゆる電プチなどの対策が全くされておらず、あと少しで勝利が見えたときに切られる事がよくある。切られると双方とも0ポイントで終わるためとても冷める。そういう時は相手のよく使う言語を見て、ああ、何とか人の子供か・・・と納得するようにしている。

 ロードが長いところ。特にエイデンがお亡くなりになった時のロードが洋ゲーにしては珍しく長く、なかなかリスポーンされない。侵入が失敗してキルされると結構長い間エイデンさんの屍を眺めていなくちゃならない。侵入された側で死ぬことはなかなか無いが、高いところからミスして落下した場合、リスポーンする間も相手のハッキングは進んでしまうため、事実上勝利は不可能となる。



総説

 々書いてきたが、ストーリー、ゲーム性、操作性、斬新さなどどれをとってもかなりの高水準でまとまったゲームだ。悪いところは全てこれらの利点で目をつぶれるレベル。オンライン対戦は1on1だけあって格ゲーに似た仮説、実行、検証の繰り返しで自分なりの勝利への方程式を構築していく楽しさがある。格ゲーと違うところはコマンド等のテクニックなどをあまり必要としないので、戦略を考えるのは得意だが操作が苦手という人も楽しめるはずだ。まあもちろんエイデンを自在に操るには慣れが必要ではあるが、ボタン配置も考えられているのである程度やり込めばストレスなくプレイできると思う。

 逆にバンバン暴れまわって、派手にドンパチやりたい人向きでは決してない。オープンワールドのゲームだからと言ってそれを期待して買うと拍子抜けを食らう。勝利がここまで静かなゲームも他に類を見ないだろう。思い込みの罠に落とし入れて巧みに相手を出し抜く。まさに「欺瞞」という言葉がこのゲームにはぴったりだ。相手を疑心暗鬼の渦に落とし切って勝利したときのえもいえぬ達成感は筆舌に尽くしがたい。是非一度はプレイしてみることを推奨する、オススメです!